〜 前期型 〜
1989年にデビューしたR32GT-Rから約10年の歳月を経て、第2世代最後のR34GT-Rが発売された。
R33GT-Rで大型化されたボディは再び肉をそぎ落とされ、フェンダーの張り出しが強調された。また、全長とホイールベースも短くなった。フロントマスクも吊り目仕様のヘッドライト採用により迫力のあるものに仕上がっている。
このボディは単に肉をそぎ落としたわけではなく、空力についても計算された代物となっている。その一つとしてフロントバンパーの両サイドにアクセントとなる張り出しが見られるが、これはブレーキを冷却するために設けられたものである。通常、ブレーキの冷却には走行風を用いるのだが、このフロントバンパーの張り出しに当たった風が、タイヤハウス側面に負圧を作り出し、その負圧によりタイヤハウスに溜まった空気が外に吸い出されることで、効率的にブレーキを冷却することが出来る。
また、角度調整機構付2段式リヤスポイラーやフロントリップスポイラーの効果で、時速100km/hにて走行時、通常の乗用車なら約60kgのリフトフォースが働くが、R34GT-Rは約20kgのリフトフォースと、乗用車の3分の1に収まっている。
エンジンは自主規制の280psは守られているものの、最大トルクはR32GT-Rの36.0kgmから4.0kgmアップの40.0kgmとなった。これは、翼形状などを改良した新開発のギャレット社製C100-GT25型ハイブリッドタイプのツインボールベアリングセラミックターボの採用や、過給圧、燃調などをチューニングし、インタークーラーやエキゾーストアウトレットの改良により通気抵抗を減らしたことで達成された。また、インタークーラーのコアチューブ厚の薄肉化、エキゾーストアウトレットをステンレス鋳造品からステンレスパイプへとしたことで、合計で約2.8kgの軽量化も同時にこなした。エキゾーストシステムとしては、排圧感応型制御マフラーの採用もされた。これらにより、最大トルクだけではなく、立上がり時のトルク特性も大幅に改善されている。
トランスミッションには、ドイツのゲトラグ社と共同開発した待望の6速マニュアルが搭載された。従来までの1速〜4速を1速〜5速へと割り当てたクロスギヤレシオを採用し、リバースギヤにもシンクロ機構を持つなど、操作性、耐久性も向上された。オーバードライブの6速に関しては、逆に従来よりハイギヤ化され、クルージング用と割り切っている。
足回りの変更としては、18インチにサイズアップしたホイールに、245/40ZR18タイヤを装着することになり、それに合わせて大幅な剛性アップ、ステアリングギヤボックスの変更、ジオメトリーの変更が行なわれた。サスペンションの方式は従来どおりのマルチリンク式となっているものの、ロワアームをテンションロッド一体型のアルミ鍛造とするなど、積極的にバネ下重量の軽量化も行なっている。また、バンパーに設けられたエアダクトより取り込む走行風を利用した、ブレーキ冷却システムを導入し、R33GT-Rより標準装備となっているブレンボ社製のブレーキを効率よく冷却する。サーキットにおいてのテストでは、R33GT-Rのブレーキ温度と比べ、50℃もの差が出たという結果もある。
インテリア面に関してのもっとも大きな変更としては、マルチファンクションディスプレイの採用である。これは、5.8インチの画面に7項目(スロット開度、インジェクター開弁率、過給圧、水温、油温、電圧、フロントトルク)の情報を表示することができ、ドライバーが知りたい情報をリアルタイムで提供してくれる。
〜 Vスペック 〜
Vスペックでの一番の変更点としては、グループCのグランドエフェクト技術を応用した、量産車では国産初となる 『アドバンスドエアロシステム』 の採用である。
このシステムは、フロントとリヤの下面をディフューザーで覆うことにより、フロント下部から入った空気は圧縮・整流されてボディ下面を通り、リヤにて拡散(ディフューズ)することによりダウンフォースを発生させる。この徹底的な空力処理により、時速180km/hで走行時には約20kgのマイナスリフトを発生させることが出来る。角度調整機構付き2段式リヤスポイラーを合わせて、速く走るほど車体が安定するという、空力を十二分に発揮することが可能となった。ちなみにリヤディフューザーはカーボン製で、リヤデフの冷却用にNACAダクトも設けられている。
また、R33GT-RのVスペックと同様、アクティブLSDを統合した4WDシステム 『ATTESA E-TS PRO』 も装備されている。
メーター周りの変更として、マルチファンクションディスプレイは標準車の7項目に加え、吸気温、排気温の項目が加わり、計9項目の値を表示することが出来る。また、タコメーターは3000rpm以下の表示範囲が圧縮され、それ以上の領域を広く取ることにより、シフトタイミングを捕らえやすくなった2段表示タコメーターを採用した。
値段は標準車より59万2千円も高価だが、これらのスペックを見れば十分に納得できる金額となっている。
〔主な変更点〕
・アドバンスドエアロシステムの採用
・フロントロアアームにブレーキ導風板を装備
・マルチファンクションディスプレイに吸気温、排気温を追加
・3000rpm以下の表示幅を圧縮した2段表示タコメーターの採用
・アクティブLSD の採用
・ATTESA E-TS PRO の採用
〜 Vスペック N1 〜
VスペックをベースにN1レース参戦用に設定されたモデルである。
今までのレース経験を生かした装備が施されており、タービンは耐久性重視のメタルタービン(C106/GT-25)を採用、またピストン、エンジンブロックもN1専用となる。空冷式オイルクーラーや大型ウォーターポンプも、耐久性を重視した仕様となっている。特に、高回転時の泡立ちを少なくするため、水かきの形状とサイズを変更、裏板を追加したウォーターポンプは、通常のものから流用して装着するユーザも多い。
リヤブレーキも、標準車やVスペックのφ300mmのローターより大型化された、φ322mmのローターを装着、ストッピングパワーの耐久性、信頼性をアップさせている。
内装や電装系に関しては、走りに関係ないものは軽量化を目的に簡略化されている。本皮巻パーキングブレーキレバーや本皮センターコンソールリッドを樹脂としたり、オーディオやドアミラーの電気格納機能などの装備は外され、エアコンもヒーター機能のみとなった。
〔主な変更点〕
・N1専用ピストン
・N1専用エンジンブロック
・N1専用強化ウォーターポンプ
・ツインボールベアリングメタルターボチャージャーの採用
・大型空冷式エンジンオイルクーラーを装備
・大型リヤブレーキの採用
・ドアミラー電動格納機能なし
・樹脂製パーキングブレーキレバーおよびセンターコンソールリッドの採用
・オートエアコン機能なし(ヒーターのみ)
・オーディオ機能なし
・リヤ間けつ式ワイパー機能なし
〜 ミッドナイトパープルU 〜
R34GT-Rの誕生を記念し、1999年1月末までの期間限定、かつ、Vスペックをベースとしたものと合計で300台限定で販売されたモデル。
R33GT-Rのボディカラーであるミッドナイトパープルに、新規顔料を加えることで、見る角度によってパープルからグリーンへと連続して色彩が変化する塗料を採用した。
〔主な変更点〕
・ボディカラーに専用色のミッドナイトパープルUを採用
〜 Vスペック ミッドナイトパープルU 〜
Vスペックをベースに、ボディカラーをミッドナイトパープルUにしたモデル。
〔主な変更点〕
・ボディカラーに専用色のミッドナイトパープルUを採用
〜 ミッドナイトパープルV 〜
ミッドナイトパープルUの色の変化、光輝感をアップさせた塗装色『ミッドナイトパープルV』をボディカラーとした限定モデル。18インチアルミホイールとリヤスポイラーの可動翼部は、こちらも専用色のシルバーとなっている。
第33回東京モーターショウに参考出品し、好評だったカラーとして選ばれた。
2000年3月末までの期間限定発売。
〔主な変更点〕
・ボディカラーに専用色のミッドナイトパープルVを採用
・アルミホイールとリヤスポイラーの可動翼部は専用色のシルバーを採用
〜 Vスペック ミッドナイトパープルV 〜
Vスペックをベースに、ボディカラーをミッドナイトパープルVにしたモデル。
標準車をベースにしたものと同じく、2000年3月末までの期間限定発売。
〔主な変更点〕
・ボディカラーに専用色のミッドナイトパープルVを採用
・アルミホイールとリヤスポイラーの可動翼部は専用色のシルバーを採用
〜 後期型 〜
R34GT-Rが発売されて約1年半、後期型となるマイナーチェンジが施された。
エンジンやサスペンションなどへの変更は無かったものの、前期型でVスペックN1のみに装備されていた大型リヤブレーキローターが標準装備となり、一段の制動力を手に入れた。
インテリアでの変更は、アルミ製スポーツペダルの採用、センターコンソールをイリジウム調とし、前後シートに黒を基調とした生地に変更したことで、車内の雰囲気が一新された。シフトノブもアルミ製となり、質感がアップした。
エクステリアでの変更は、フロントグリルやバンパーの形状に多少の変更が加えられ、ウインカーのレンズがクリアレンズとなった。ボディカラーにホワイトパール(QX1)とスパークリングシルバー(WV2)の2色が追加された。
〔主な変更点〕
・大型リヤブレーキローターを全車に採用
・アルミ製スポーツペダルの採用
・アルミ製シフトノブの採用
・センターコンソールをイリジウム調に変更
・黒を基調としたシートクロスの採用
・フロントグリル、フロントバンパーの形状を変更
・ウインカーにクリアレンズを採用
・ボディカラーにホワイトパール(QX1)、スパークリングシルバー(WV2)を追加
〜 VスペックU 〜
マイナーチェンジにより Vスペック が終了し、新たに VスペックU となった。
アクティブLSDを使用した ATTESA E-TS PRO や、アドバンスドエアロシステム などの装備はVスペックと同様だが、Vスペックとの相違点はなんと言っても、量産車初となるカーボンボンネットの採用である。このボンネットはカーボンファイバー製で、標準車のアルミ製ボンネットより4kgの軽量化を果たし、フロントヘビーのGT-Rにとって非常に効果的なパーツとなった。また、このカーボンボンネットにはNACA(現在のNASA)が開発した、最も効率がよいとされるNACAダクトが設けられており、このダクトから取り入れられたエアーにより、タービン付近の温度を4〜5℃下げることができた。
Vスペックと標準車との金額の差は60万円であったが、高価なカーボンボンネットの採用により70万円の差となった。しかしながら、アルミ製ボンネット単体が約7万円、カーボン製ボンネット単体が32万円とその差約25万円を考えれば安いものであると言えよう。
〔主な変更点〕
・NACAダクト付きカーボンボンネットの採用
〜 VスペックU N1 〜
VスペックUをベースに、N1レース参戦用に設定されたモデルである。
Vスペック N1 と同様に、メタルタービン(C106/GT-25)、N1専用ピストン、N1専用エンジンブロック、空冷式オイルクーラーや大型ウォーターポンプも装着され、内装や電装系に関しても同様の簡略化が施されている。
主な変更点であるNACAダクト付きカーボン製ボンネット採用による軽量化は、レースの場面ではさらに大きなアドバンテージとなることは間違いない。
〜 Mスペック 〜
乗り心地と上質感を重視した「大人のためのGT-R」という位置づけのモデルである。基本的な装備はVスペックUと同等であり、アクティブLSDを使用した ATTESA E-TS PRO や、アドバンスドエアロシステム、2段表示タコメーターは装備されるが、ボンネットに関しては標準車と同じアルミ製となる。
先に説明した「乗り心地走」に一番貢献しているのは、専用に開発されたリップルコントロールショックアブソーバーである。これは路面の凹凸などの微笑ストロークを吸収する効果があり、特に一般道では乗り心地だけではなく接地性がアップし、それに伴う安定性、安心感といった面で大きな効果を発揮することができた。言葉で表すなら「しなやかな」という言葉がしっくりくる仕上げとなっている。専用ショックアブソーバーの採用に伴い足回りのセッティングを見直した結果、リヤスタビライザーはひとまわり細い径となった。
内装も上質な仕上がりへと変化している。まず、一脚ごとに職人の手縫い&張り込み加工を施したGT-R刺繍入り本皮シート。この本皮シートにも衝撃吸収性を高めた仕様となっており、前席にはシートヒーターが装備されている。熟練職人しか作製できないため、月に100脚、50台分をつくるのがやっとという話もある。
また、ハンドルについてもグリップ部が標準車より一回り太く、グリップ感を向上させたファイングリップタイプの専用ステアリングホイールが採用された。
このように乗り心地、そして内装においてまで今までの「速さ」を追求した方向性とは異なったアプローチをしているのが伝わり、まさに「大人のGT-R」と呼ぶにふさわしい仕上がりとなっている。このGT-R Mスペックによるロングドライブは、より快適で楽しいことは間違いないだろう。
ボディカラーは光の当たり方で色が微妙に変化する特別塗装色のシリカブレス(EYO)を追加した。
〔主な変更点〕
・リップルコントロールショックアブソーバーの採用
・リヤスタビライザーの細径化
・GT-R刺繍入り手縫い本皮シートの採用
・前席にシートヒーターを装備
・ファイングリップタイプの本皮ステアリングホイール採用
・ボディカラーに特別塗装色のシリカブレス(EYO)を追加
〜 VスペックU ニュル 〜
Mスペック ニュル と合わせて合計1000台の限定発売とされたR34のファイナルバージョン。1000台という数にもかかわらず、即日完売となった。
VスペックUをベース車両として使用しているものの、その素性は第2世代GT-R最後のモデルとして申し分のない仕様となっている。
最大の変更点としては、間違いなくエンジンだろう。最終モデルの心臓部は、N1仕様のエンジンをベースに、ピストンやコンロッドの重量バランスを均一化したという、レースエンジンさながらの手の込みよう。もちろんオイルポンプやウォーターポンプ、エキゾーストマニホールド、エアホースもN1用を使用する。タービンもN1同様のメタルタービンとなる。エンジンヘッドカバーがゴールドとなっているのも特徴である。
メタルタービンの採用により、低回転域は多少重く感じるものの、4000rpmを越えたあたりから爆発的な加速となる。そして高い精度でバランスの取れたピストン&コンロッドが、高回転域のキレのよさをより確実なものとしてくれる。
スピードメーターは300km/hフルスケールの専用品。ボディカラーに特別塗装色のミレニアムジェイドメタリック(JWO)を追加。クローム調仕上げのニュル専用の立体グレードエンブレムがリヤに光る。
〔主な変更点〕
・ニュル専用N1ベースエンジン
・ニュル専用300km/hフルスケールスピードメーター
・ニュル専用クローム調仕上げ立体グレードエンブレム
・ミレニアムジェイドメタリック(JWO)を追加
〜 Mスペック ニュル 〜
Mスペックをベース車両としたニュル仕様モデル。630万円と、第2世代のGT-Rで一番高価なモデルとなる。
〔主な変更点〕
・ニュル専用N1ベースエンジン
・ニュル専用300km/hフルスケールスピードメーター
・ニュル専用クローム調仕上げ立体グレードエンブレム
・ミレニアムジェイドメタリック(JWO)を追加
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